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2017年5月30日 (火)

14 警戒吠え対策

-目次はこちら-

警戒吠え対策

           

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写真は警戒吠えをしない犬たちの見本といえるだろう。中央のレオンベルガーは大きな体躯と穏やかな性格のため、他の犬を恐れることが少ないため、初対面の相手でも警戒吠えをしない。ジャックラッセルテリアのジャンも幼時よりあらゆる犬種と遊ばせて育てたので、相手がどんなに大きくても、強面でも警戒吠えはしない。左の2匹のジャックラッセルテリアたちは、初対面の犬に敵意がないことを示すため、知らん顔で地面の匂いを嗅いでいる。ただし彼らがこうして平和に過ごせるのは、幼時からの社会化を徹底したおかげだ。

 

警戒吠えとその理由

チャイムが鳴ったとたん玄関に走っていって、大きな声で吠える、家の前を誰かが通ると、その方向に走りながら、むやみに吠える、散歩の時、通りかかった犬にやたらと吠える、吠え方は、ワンワンワンと三音節以上続けて吠えるか、ワワワワンととぎれずに吠え続ける。こうした吠え方をしている犬は、相手に対して警戒心を持ち、自分独りでは対処する自信がないので「誰か来てくれ、怪しい事がある」と警戒と招集の吠え声を上げています。これらをまとめて、警戒吠えと定義する事が出来ると思います。この警戒吠えも、しばしば犬による騒音として問題視されます。では、どうすれば不必要な警戒吠えをヤメさせる事が出来るのでしょうか?

 

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若いドイツシェパードが道の向こうからワワワンと吠えてきたので、飼い主さんの了解をとって、マイロとジャンと挨拶をさせてみました。シェパードは耳を引き、尻尾を下げて振り、礼儀正しく挨拶してきました。対するマイロは尻尾を高く振り、耳を立てたまま挨拶しています。この場合マイロは相手を恐れていないので一切吠えていません。ジャーマンシェパードはまだ訓練中とのことで、犬種に特有の高い警戒心も影響して警戒吠えを行ったことになると思います。このような場合も、相手の犬と直接挨拶させて危険がないことを繰り返し学習させれば、徐々に相手の犬に吠え掛かることもなくなるはずです。犬の警戒吠えは未知のものに対する恐怖でも起こるからです。

 

警戒吠えは弱い犬ほどやる

警戒吠えは、気が強い犬が相手の犬を威嚇するためにやっていると勘違いしている飼い主さんがいますが、実際には不審な物音に反応したり、向こうから来る犬が怖かったりして、反射的に仲間を呼び集めたい気分になって吠えている事が多いので、むしろ気の弱い犬、自分を下位だと感じている犬のほうが良く吠える事になります。

警戒吠えが犬による騒音と見なされる事があるのは、犬にとって飼い主や同居の家族が頼りにならないと見限られてしまっている時です。この場合、犬は衝動的な恐怖を解消するために、招集の吠え声を上げているわけですが、いくら吠えても、自分の恐怖を払拭してくれる頼りになる存在が現れてくれないので、たとえ飼い主がそばにいたとしても、吠えやむ事が出来なくなってしまうのです。

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若いミックス犬がジャンと取っ組み合い遊びをしているうちに劣勢になり、恐怖心から、ジャンに警戒吠えを伴う咬み付き攻撃を仕掛けてきました。その瞬間、今まで静観していたマイロが抑制された咬み付き攻撃をおこないました。ミックス犬は、顔をそむけてそれを避けています。この様に、攻撃は恐怖の裏返しで行われることもあるが、その場合は警戒吠えが先に発せられるので人間も予測しやすいものです。むしろ問題はマイロの様に、相手を恐れずに、無言・無表情の状態からいきなり攻撃に移ることがある犬のほうだと思います。

 

警戒吠えの根本対策

反対に、毎日の散歩や訓練を通じて、犬が飼い主を頼りになる存在と見なしている時、警戒吠えは番犬としての勤めを犬が果たしているだけなので、あまり問題にする必要はありません。例えば家のジャンの例では…

・ピンポンとドアチャイムが鳴る。

•ジャンはいびきをかいて寝ていても、がばっと飛び起き、ダッシュして玄関に駆けて行き「誰か来たぞ、みんな集まれ」と吠えて騒ぎたてる。

•僕か家内が出向き「ヨシヨシ・ヤメ・ツケ」と、もう吠えなくても良い、脚側につけと命じる。

•普段から脚側歩行訓練などで、飼い主を上位者と見なしているジャンは、安心して吠えるのをやめる。

 

そんな風に脚側歩行訓練などで、常に飼い主を前面にたてる習慣がついていれば、犬は飼い主より一歩下がり、飼い主をバックアップする位置に着き、来客に本当に危険がないか、黙って警戒する立場に落ち着く事が出来るのです。

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マイロが唯一警戒吠えをする相手が、夜の散歩で時々出会うブタです。獣猟犬から見たらブタはイノシシと同じだから、彼女の判断は半ば正しいと思います。一方ジャンは、特に警戒することもなく、ブタに挨拶にいって口元をなめています。ただし、甘咬みもするので、ブタを大きな犬とみなして挨拶しているのか、食欲を感じているのかは僕にはよくわかりません。ちなみにブタはかなり迷惑そうに見えます。

 

強制的に吠えるのをやめさせるには

飼い主による犬の訓練が完成しておらず、まだ犬が飼い主を頼りになる上位者として信頼できていない場合、特に子犬が吠えるのをやめさせるには、犬の群れの上位者が、下位者を黙らせる方法をまねて、強制的に吠えるのを止める方法を使う事も出来ます。ただし、これは、あくまで短期的な暫定対策に過ぎないので、自分の飼い犬が声で静止命令を出しても吠えるのをやめない場合のみ使う様にしてください。

この方法は、犬の群れのボスや母親など上位の犬が、子犬に黙れという信号を発して、子犬を黙らせる方法をまねたものです。上位の犬は吠えている子犬を黙らせようとするとき、子犬の鼻面を、やんわりくわえ、低く短いうなり声で子犬に静止を命じます。子犬は鼻面をくわえられても痛いわけではありませんが、自分が叱られている事は認識出来るので、すぐに静かになるはずです。

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上の写真は、調子にのって騒ぐ若いオオカミのマズルを咬んで叱るアルファ牡。同じような叱り方をすれば、人間も犬の警戒吠えもとめることはできるが、吠える原因がはっきりしない時は、むやみに止めないほうが良いと僕は思います。吠えすぎる犬対策は、ともかく犬が吠えている原因を見つけることが大切です。

 

同じ様に、人間である飼い主も上位の犬の振る舞いを真似て、子犬が吠え続けるのを止めることができます。犬を左側にして膝をつき、左手で犬の首を保持し、右手で犬の鼻面を包むようにして押し下げるのです。そして低い静かな声で、「ヤメ」または「シズカニ」と命じます。犬が一回で黙らない時は、この行動を繰り返します。犬の性格によりますが、数回から十数回この動作を繰り返すと、「ヤメ」や「シズカニ」という命令だけで、犬は警戒吠えをやめる様になります。

この方法は、元々群れのボスが自分より下位の犬たちを黙らせる方法と同じなので、脚側歩行訓練などと平行して行うと、犬に飼い主を上位者と認めさせる強化訓練としても機能します。

しかし、前回も書いたように、犬が良く吠えるのは、私達人類が、良く吠える犬を選択育種してきた結果なので、むやみに強制的な手段で、犬が吠えるのを止める事は避けるべきだと思います。

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ジャンが初対面の柴犬と遊ぼうと、姿勢を低くして、耳を引き下から挨拶しています。しかしこの柴犬はジャンとの相性はあまりよくないようで、目の前でいきなり警戒吠えをされてしまいました。どんな犬でも恐れずにフレンドリーに挨拶できる犬も、好悪の感情までは乗り越えることができません。こういう場合は、犬を呼び戻して、他の犬と遊ぶように促すほうが良いでしょう。

 

警戒吠えを禁止するのは?

不審者の接近に気づいて、犬が警戒の吠え声をあげる時、例えそのほとんどが危険が無いとしても、僕は最初から黙らせないほうがいいと思います。オオカミ少年のたとえにもあるとおり、犬が危険を感じて吠える時、千に一つは、たとえば侵入盗犯が侵入を企てたのを、けたたましく吠える犬に阻まれた様な、本当に危険な状況が隠されているかもしれないからです。

犬が吠えた原因を探っても良く分からないときは、犬は人間には関知できない危険な気配に反応したのかも知れません。安全が確認されたら、飼い主は犬をそばに呼んで、なでて、もう大丈夫だから吠えなくても良いと保証してあげてください。強制的に黙らせるだけでなく、犬が吠えた原因を探り、必要ならその原因を取り除く手順を繰り返すことで、犬は吠えるべき状況と、吠えなくても問題がない状況を見分ける事が出来るようになっていきます。吠える犬がうるさいから、近所から苦情がくるからと言って、むやみに叱ったり、体罰を加えたりする事だけは絶対にしないでください。犬に理解出来ない理由や方法で犬を叱ると、飼い主と犬の関係は破綻してしまい、飼い主を信頼させる事で不必要に吠えなくさせると言う根本的な解決が不可能になってしまうからです。

犬に無駄吠えはありません。

繰り返しになりますが、犬にとって無駄吠えと言うのはありません。犬は吠えることで、一万年以上も前に我々の祖先から託された義務と仕事を今も果たしているという事を忘れないでください。 -目次はこちら-

つづく

13 要求吠え対策

要求吠え対策

 

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犬の要求吠えの根本対策は、犬に毎日十分な運動をさせ、幼いころから犬同士でたくさん遊ばせることだと思います。たったそれだけのことで、あなたの犬の要求吠えは減り、家庭内での態度も見違えるほどよくなるはずです。

 

犬はなぜ吠えるのか?

 

犬がワンワンと吠えるのは、人間が祖先のオオカミから犬を育種する過程で、はっきりと人間に分かる様な声で吠える個体を選択繁殖し続けたからです。その証拠に犬の祖先であるオオカミは、自然状態では驚くほど寡黙な生き物です。飼育されているオオカミでさえ、遠吠えと儀礼的闘争の時以外、ほとんど声を上げません。マイロの友達の狼犬も、ほぼ無言です。彼女は一般家庭で飼われているのですが、彼女を知る犬の飼い主さん以外、その家で大きな狼の様な犬が飼われている事を知っている人はいません。これは狼の血が濃い狼犬もほとんど吠えない事と、彼女が非常にシャイなため、知らない人がいると、全く姿を見せてくれないからです。

ある意味オオカミと言う生き物は、人の目から隠れて棲むのが得意な生き物であり、自分から人の注意を引くような吠え方はしない生き物だと言えるでしょう。逆に犬と言う生き物は、オオカミの警戒音声であるワフというような声から、ワンワンと大きな声で吠える様に人間がわざわざ育ててきた生き物です。これは狩りの際に獲物に吠えかかって足止めしたり、不審者に吠えて追い払ったりするため、人間が好んだ犬と言う家畜の新しい能力と言えるでしょう。では犬が吠え過ぎると何がいけないのでしょう?

 

Image099 この2匹はどんなに激しい取っ組み合い遊びをしても吠えない犬の典型といえるでしょう。オオカミの血が濃いオオカミ犬は、そもそも犬の様に吠えることがありません。一方のマイロは楽しく遊んでいるので要求吠えの必要がない、さらに相手のオオカミ犬を楽しい遊び相手と考え、怖がっていないので、警戒して吠えることも、恐怖から吠えることもありません。つまり犬というのは、吠える必要がなければ、むやみに吠える生き物ではないということです。

 

犬の吠え声は飼養放棄の主原因!

実は人口過密な都会や閑静な住宅街で犬を飼うとき、犬の良く通る吠え声は、となり近所から「うるさい!」と苦情を言われる原因になりかねないのです。考えてみると、犬の育種の歴史1万年から数万年の間、多くの犬は「良く吠えて獲物の居場所を教え、よそ者に吠えかかって追い払う」事を目的のひとつとして選択育種されて来たわけです。それを「事情が変わったのだから、もう犬も吠えない様にしろ」というのは、人間もずいぶん身勝手なことを言う生き物だと思います。

しかし、不要犬の引き取りと殺処分を今も続けている地域の「動物愛護センター」の統計を見ると「無駄吠え」と言う項目が「咬癖」とならんで、不要犬とされる理由の常に上位を占めています。つまり犬の「無駄吠え」を止める方法がわかれば、動物愛護センターに連れ込まれ、その結果殺されてしまう犬を減らす事が出来ることになるのです。

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ドッグランの中で遊び相手に会えなかったため吠えているマイロ。この時彼女は僕に遊び相手になれと要求吠えをしていることになる。こんなときはどうすればよいのでしょう?

 

犬に無駄吠えはない

ここで個人的な意見を述べてしまうと、僕自身は犬にとっての「無駄吠え」と言うのはないと考えています。犬は同居している人間や他の犬に、なにか訴えたい事があって吠えるものだと思うからです。そして人間と同居している犬が発する様々な吠え声の内、しばしば騒音として問題になるのは要求吠えと警戒吠えだと思います。この二つは、異なる原因による吠え声ですが、吠える原因が複数ある上、犬の欲求不満と恐怖に基づく吠え声であるため、短時間に吠えやむ事がない点が問題です。

 

要求吠えとその原因

犬が飼い主や他の犬に何かを要求しようとするとき吠えるのが要求吠えです。吠え方は、良く通る大きな声で、ワン・ワン・ワンまたは、ワン・・・ワンと言うように、相手をじっと見つめ、四肢を踏ん張って、一声ずつ区切って吠える事が多いです。要求吠えは、犬の相対的な地位が高い時によく見られ、「餌が欲しい」「散歩に行きたい」「何か投げてくれ」と言った具体的な要求があって吠える場合と、単に「暇だから」と、抽象的な欲求不満だけで吠える事もあります。

要求吠えの原因ですが、犬が散歩の時間に不足を感じている場合など、おもに運動不足からくるストレスが原因になって吠えている事が多いです。

要求吠えの根本対策は、毎日朝晩、犬がある程度疲れて帰宅したら自主的に休むくらいの運動量を確保することです。歩きの散歩をランニングの散歩にする、リトリーブを教えて遠くまで投げたゲームを繰り返し回収する遊びで運動させる、僕がマイロとジャンに夏にやらせているように狩猟ゲームをする、より遠くまで散歩に出るなど、ともかく犬が心身ともに疲れる運動をさせるのが効果的です。運動不足が解消されれば、犬のストレスも解消され、欲求不満を訴えるために吠えることもなくなるからです。

 

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犬の遊び相手がいないために要求吠えをしているなら、飼い主が代わりにゲームを投げてリトリーブ遊びに付き合ってやれば良い。マイロの様に、幼少期に犬の量販店で過ごし、独りで過ごした期間が長い犬の場合、子犬時代に社会化した相手以外とは親しく遊ぶ事ができない場合もある。そういう犬の欲求不満を満たしてやるのも飼い主の義務だと思う。

 

犬のわがままと正当な要求

もう一つの対策は、犬の要求を飼い主の都合で構わないので、わがままと飼い主が受け入れられるものに切り分けて対処することです。

たとえば家人が家事で立ち働いている時に要求吠えをしてきたら、一切構わずに無視を続けます。この時、声を荒げて叱るようなことは逆効果です。ともかく、犬が吠えやむまで無視してください。犬は吠えても構ってもらえない事が分かれば、要求吠えをしても効果がない事を学習し、要求吠えの頻度は下がって行きます。しかし、その要求が外に定時のトイレに行きたい、という切実なものだったら、飼い主が犬のトイレのタイミングを把握できるように毎日観察を行い、犬が要求吠えを始める以前に対応する必要があります。

こんな風に、犬が吠える時、そこには必ず理由があります。吠える理由は、犬が感じている欲求不満や不都合です。それを飼い主の側が切り分けて、常に一定の基準に基づいて対処していけば、要求吠えは徐々に解消する事が出来るものだと思います。

 

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このトイプードルは最初、道の向こう側でジャンに一緒に遊ぼうと要求吠えをしていた。ところがジャンが誘いに乗って、飛びついた瞬間、今度はジャンが怖くなり、歯をむき出し警戒と恐怖の吠え声を上げてしまった。

 

犬が吠えるかどうかは氏より育ち

上の写真のプードルの様に訓練性能の高い賢い犬であっても、社会化が不十分で訓練未了な犬の情緒は不安定で、相手の行動によって感情も吠え方もめまぐるしく変わるものです。一方ジャックラッセルテリアという訓練難易度の高い犬でも、幼時からの徹底した社会化と飼い主を上位者とみなすような訓練を行えば、他の犬をむやみに恐れることがなくなるので、相手に目の前で吠えられても、吠え返すことすらしない様にできます。

このように飼い主は自分の飼い犬の吠え方の様子や、振る舞いをよく観察して、犬の感情の変化を読み取り、犬に任せたままでよいか、飼い主が制御すべきかを、その場その場で判断して対処しなくてはなりません。

ちなみに2匹にお尻をむけて右隅で地面の匂いを嗅いでいるマイロの行為は敵意がないことをしめしているカーミングシグナルにあたります。彼女のこの態度も、ジャンに危険が迫れば、瞬時に相手に対する攻撃に切り替わる一時的な振る舞いにすぎません。意外かも知れませんが、この状態で注意が必要なのは、実はマイロのように前兆を見せずに、瞬時に攻撃に移る犬の方なのです。

 

次回は、警戒吠えの原因と対策について考えて見たいと思います。

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12 信頼で取り除く犬の分離不安

信頼で取り除く犬の分離不安

     

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散歩途中の私鉄の駅の改札前で、フセて家人の帰りを待つジャン。彼がこんな風に一人で駅頭で落ち着いて待てるようになるまで、およそ1年間の訓練期間が必要だった。一人で待てなかった理由、それは彼が抱えていた分離不安だった。

 

スワッテ・マテが出来なかった2匹目のジャン

 

犬の分離不安を訓練で解消した例を一つご紹介します。実は、マイロの訓練では、この問題は発生しませんでした。マイロはリーダーになるタイプの犬が持つアルファ気質と、幼少期から犬の量販店で単独飼育されていたせいなのか、家に来た当初から独りで飼い主の帰りを待つ事が平気な子犬でした。良く言えば我慢強い犬、悪くいえば鈍感な犬だったのかも知れません。その代わり、常に独立独歩で行動しようとするマイロを訓練するのは容易な事ではありませんでした。マイロは生後6ヶ月でやっとツケを覚えた様な訓練難易度が高い犬でしたが、独りで待つことだけは、最初から平気な犬だったのです。

一方我が家の2匹目のジャックラッセルテリアのジャンは、マイロの訓練を模倣する事で、服従訓練全般を数回教えただけで覚えてしまうような訓練性能の高い犬でした。しかしスワッテ・マテだけはうまくできませんでした。訓練のために、毎日他の犬と遊んでいる公園に連れて行き、木に繋ぎ、ジャンにスワレ・マテを命じ、僕とマイロがジャンから10mも離れるとキャンキャン大声で鳴いて不安を訴えました。僕はジャンの振る舞いを分離不安に起因する問題行動と考え対策を考えはじめました。

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僕は買い物に行くときもできるだけ犬を連れて出かける。この店舗は犬連れでは入れないので、買い物をするために、マイロとジャンをつなぎ、スワレ・マテを命じ、僕が離れると、マイロは座ったままなのに、ジャンはすぐに立ち上がってついて来たい様なそぶりを見せた。普段は下げた事のない尻尾も下がってしまっている。これは彼が抱えている分離不安のせいだったようだ。

 

僕はマイロが初めて飼ったジャックラッセルテリアだったので、この犬種はみんなマイロの様に我慢強い犬だと思っていました。ですからジャンの態度は意外でした。ジャンは、マイロがいないと独りで留守番さえ出来ませんでした。マイロが家人に連れられて出かけてしまい、僕とジャンしか家にいないときは、僕がトイレに入ったり、風呂に入ったりするたびに、扉をひっかいて、中に入ろうとさえしました。

ただし犬の分離不安は一概に悪い事ばかりではありません。たとえば軽度の分離不安なら、呼び戻しやリードなしのヒール訓練は教えやすくなるのです。こうした犬は、飼い主から離れると不安を感じるので、厳密な訓練をしなくても、名前を呼べば素直に飼い主の元に駆け戻り、いつも飼い主について回るような性格だからです。つまり犬の分離不安も、上手く対応すれば、良い方に導く事が出来る訳です。分離不安に基づく問題行動は、今まで飼った犬でも、拾って来た犬や、最初の飼い主に飼育放棄された犬に良く見られた行動でした。

想像ですが、ジャンの場合はペットの量販店で生後4ヶ月過ぎまで売れ残っていて、ずっと大部屋暮らしだったため、独りになる機会がほとんど無かった事が原因かも知れません。

 

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駅頭でのスワッテ・マテ訓練の様子を再現するとこんな感じでした。ジャンは知らない人でも、だれか周りに人がいれば、短時間は座って待つ事ができる犬だったので、その事を利用して、人通りが多い場所で訓練を始めました。ちなみに、この段階でも電車の騒音や人混みは平気な様子でした。

 

スワッテ・マテの教え方で分離不安を解消

東京の様な都市部で、犬を連れて外出すると、多くの店舗は犬連れで入る事が出来ません。つまり、外出の際、犬を家において出るか、出先で犬を店舗の近くに待たせて置くかの選択肢しかない暮らしを、飼い主と犬は余儀なくされる訳です。

僕は犬を連れて行ける場所には、いつでもどこでも犬連れで外出します。犬は独りで家に置き去りにされるより、少しでも飼い主と一緒にいることを望むと考えているからです。そのためジャンの様に分離不安が著しい犬には、なんらかの対策が必要でした。

僕はジャンにスワッテ・マテを教える過程で、ジャンの行動を繰り返し観察しました。マイロと一緒の時はスワッテ・マテが出来るので、次は二人で訓練を行い、ジャンに誰かついている状態でスワッテ・マテを試しました。色々試すと、ジャンは初対面の人でも、構ってくれる人がそばにいれば、短時間ならスワッテ・マテが出来る事が分かりました。

この事からジャンの分離不安は、家族やマイロから離れる事に起因するだけでなく、独りになる事を嫌う面もあるように思えました。僕はマイロが避妊手術で3日間留守になった期間を利用して、商店街や駅頭など、常に人通りがある場所で、ジャンを独りで待たせる訓練を始めました。回りにたくさん待ち合わせの人がいる場所に繋ぎ、ジャンにスワッテ・マテを命じ、ジャンから見える範囲で10mくらい離れて立ちました。ジャンは回りを見回して、僕の位置を確認すると、通り過ぎる人越しに僕の姿を見失わない様に、頭を小刻みに動かしてずっとこちらを見ていました。

この停座待機の訓練は1分くらいからはじめ、短い時間でもマテができたら、ゆっくり歩いてジャンの前に戻り、ヨシヨシ・マテと笑顔で大げさに褒めて、頭や背中をゆっくりと撫で、ご褒美を与えました。

 この訓練を徐々に時間と距離を伸ばしながら続け、10分、20mまでのばしていきました。ジャンは僕の立ち位置が段々離れて行くと、不安そうに通り過ぎる人越しに僕を捜してきょろきょろしましたが、おとなしく待っていれば、必ず僕がジャンの元に戻り、ヨシヨシと笑顔で褒めて撫でてくれ、毎回ご褒美ももらえる事を学習していきました。

この訓練のコツは、犬が不安を覚えて鳴き出す直前に訓練手が戻り犬を大げさに褒める事です。

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訓練中、僕が見える位置にいると、ジャンの視線は人混みを通り越して、常に僕の方に向けられていました。こうしたタイプの犬は、仮に分離不安があっても、従順な性格で、飼い主への依存度が高いので、訓練は入りやすいです。分離不安=悪いこと、だけではないと僕は思います。

 

翌日は人通りが少ない場所に繋ぎ、暫く見える所に立ったあと、僕はジャンから見えない店内に移動しました。店内からガラス越しに見ていると、ジャンは僕が入った店の扉を見つめたまま、根気よく座っていました。時々足踏みしながら、僕が消えた入り口を見張っていれば、僕が必ず帰ってくると確信しているように見えました。僕はジャンが立ち上がりそうになったり、ジャンプして僕の姿を捜したりし始める前にジャンの元に戻り、ヨシヨシ・マテと笑顔で褒めて、ご褒美を与える訓練を繰り返しました。

 

分離不安解消には飼い主と犬の信頼関係構築を

 

こうした訓練を3日間、電車の駅頭や公園で繰り返した所、ジャンは回りに誰かいれば、30分くらいはおとなしくスワッテ・マテが出来る様になりました。面白いのは、僕の姿が見えなくなると、よその人が構ってくれても、気もそぞろな様子で、あまり愛想良く振る舞わなかった事です。

 

マイロが病院から戻ってからは、散歩の時に毎日1匹ずつ行う脚側歩行訓練の際に、スワッテ・マテの訓練を毎日少しずつ繰り返しました。半年くらい毎日訓練を続けたところ、ジャンはひとりで外に繋がれても、家に残されても、おとなしく僕が戻るまで待てる様になって行きました。

 

僕はジャンの停座待機の訓練を通じて、分離不安からくる犬の問題行動の解決の一つの手段として、犬を独りでいる状態に慣らすだけでなく、おとなしく待っていれば、飼い主は必ず帰って来て褒めてくれると言う事を、犬に学習させる事、犬が飼い主を信頼して待てる関係を構築する事が重要だと考える様になりました。

 

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僕は天候に関係なく毎日2回以上、朝晩犬たちを連れて、毎日のべ3時間の散歩にでます。これは雨が降っても、雪が降っても変わらず、もう40年以上続けている毎日の習慣です。だから朝のテレビニュースもゴールデンタイムのテレビ番組も僕はリアルタイムで見た事がありません。犬と暮らすと言うことはそういう人間の不便さをおしてでも、犬との共同生活を優先する事なのだと思います。当然、どこにでも犬を連れていくので、犬を連れて入れない場所に行く時は、スワッテ・マテの訓練が必要になるわけです。

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11 犬と楽しく遊ぶモッテ・コイを教える

犬と楽しく遊ぶモッテ・コイを教える

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マイロは持来訓練を生後3ヶ月くらいから始めました。この頃はまだ口が小さくて、テニスボールでもくわえることができなかったので、木製の小さなアレイを投げて持って帰る事から始めました。写真は無事にモッテとコイの2つの声符に従いアレイを持ち帰ったマイロ。 

一連の連載の中で何度か書いていますが、ジャックラッセルテリアの様に猟欲の強い犬、体力旺盛な犬は、本当は東京の様な都市部で飼うのには向かない犬種だと思います。こういう犬は、毎日欠かさず運動させ、体力を消耗させておかないとストレスがたまり、いたずらが激しくなる程度ならともかく、最悪攻撃的な性格が助長され、咬傷事故の原因にもなりかねないからです。そんな風に、予想を上回るほど活発なジャックラッセルテリアを飼ってしまい、日々の運動量確保に苦労されている飼い主さんにお勧めなのが、リトリーブ、つまりボールやフリスビーの様なゲーム(犬にとっての獲物)を投げて、飼い主の手元に持ち帰らせる「持来」訓練です。散歩やランニングだと、飼い主が一緒に歩いたり走ったりしなくてはなりませんが、持来訓練なら、飼い主は定位置にいて、犬にゲームを投げてやれば良く、投げたゲームを繰り返し犬に持ち帰る様に命じるだけで、かなりの運動量が確保出来ます。またリトリーブはジャックラッセルテリアが強く持っている猟欲を満たす運動としても最適です。

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持来訓練を始めた当初、マイロはゲームをきちんと持ち帰りはしましたが、僕になかなか返してくれませんでした。そこでモッテとハナセの訓練を別々に行う事にしました。

 

ただし、ジャックラッセルテリアに持来を教える場合は、最低限「呼び戻し」を教えておかないと、投げてもらったボールをくわえたまま、どこまでも走って行って帰って来ないと言う事態もあり得ますので、以前の記事を参考に呼び戻しの訓練は確実にしておいてください。

それと猟欲が強すぎる犬の場合、ゲームをくわえる事と、放す事を事前に教えておいた方が、訓練も順調に進むと思います。持来訓練が入ると、応用で隠した物や隠れた人を見つける「捜索訓練」や、嗅跡で人や獲物を追う「追跡訓練」なども可能になります。家庭犬にそこまで教える必要があるかどうかは別として、ジャックラッセルテリアのようにハイパーな犬種に尊敬される飼い主になるためには、犬に常に訓練の課題を与え「命令をする者・される者」の関係を保つことも大切です。飼い主と飼い犬の信頼関係は、人と犬が毎日散歩と訓練で楽しく過ごす中で徐々に培われていくものだと僕は思います。

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持来訓練が進むに連れ、ゲームは重く大きなものに、持ち帰る距離も徐々に伸ばして行く。マイロがくわえているのは、骨型の樹脂製のおもちゃ。小型犬では重いゲームを持ち帰ることで体力の消耗も速くなる。

 

持来訓練は犬が幼い内に始めた方が、安定して教える事ができます。持来と言う行為は、元々犬が祖先のオオカミから受け継いでいる「幼い仲間に獲物を持ち帰りたい」と言う本能からくる側面と、「儀礼的階級闘争」のひとつである「ゲーム(獲物)のひっぱりっこ=誇示行為」の側面もあり、ジャックラッセルテリアでは、後者の比率が高い様に見えます。そのため、持来に対するモチベーションを高く保つには、儀礼的闘争を犬同士が行う、社会化期から訓練を始めるのが良いと思われるのです。

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仲の良い犬同士なら、一緒に持来訓練の応用で遊ばせる事もできます。マイロは仮に他の犬が先にくわえたゲームでも、体当たりしたり、相手がくわえているのをもぎ取ったりして、最終的に訓練手にゲームを持ち帰るのはいつもマイロと言う例がほとんどだった。これが後に大変な事態に発展していく事に僕は気づかなかった。

 

持来訓練は以下の様な方法で行います。

持来訓練の準備:モッテとハナセを教える

  1. 犬にボールやフリスビーなど投げて持ち帰るゲームを、命令でくわえさせ、命令で放すように訓練する。これはゲームを返さない犬にも、ゲームを途中で落としてしまう犬にも有効。
  2. 犬にスワレを命じ、ゲームを手で持って生き物の様に動かす。最初は犬の首輪をもって抑え、犬がゲームに食いつこうとするのを抑える。
  3. 犬の「ゲームに咬み着きたい」と言う衝動が十分高まったところで、モッテと命じ首輪を持った手をゆるめ、ゲームをくわえさせる。
  4. しばらく犬とゲームを引き合い、犬の所有欲が高まったところで一拍おき、ハナセ(ダセ)と命じ、ゲームを放させる。犬が素直に放さない時は、耳に息を吹き込んで強制的に放させる。
  5. この訓練を、モッテでゲームをくわえ、ハナセでゲームを自在に放す様になるまで繰り返す。

持来訓練の準備:コイを教える

  1. 犬に対面でスワレ・マテを命じ、そのまま犬から5mくらい離れる。
  2. 犬が座るのに飽きた様子を見せたら、コイと命じ、大げさに手招きする様にして犬を呼び戻す。
  3. 犬が戻ってきたら、ヨシヨシ・コイと笑顔で大げさに褒める。
  4. コイですぐに戻れる様になったら、目安として7m以上離れた場所から、コイと呼ぶだけで、瞬時に犬が帰ってくる様になるまで訓練する。
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生後半年を過ぎたあたりで、マイロはテニスボールもくわえて持ち帰る事ができるようになりましたた。しかし、持ち帰ったゲームをすぐに放さないのは、子犬の頃からあまり変わりませんでした。

持来訓練:モッテ・コイとハナセを一緒に教える

  1. 犬を訓練手の左脚側に座らせ、ボール・フリスビー・訓練用のアレイなどのゲームを犬の目の前に投げ、モッテ・コイと命じる。
  2. 犬がゲームを追って飛び出したら、再度モッテ・コイと命じる。
  3. 犬がゲームをくわえて、どちらに行くか迷うしぐさを見せたら、モッテ・コイと繰り返す。ジャックラッセルテリアはリトリーバーではないので、ゲームをくわえた瞬間、持って帰る事を忘れてしまう犬もいるので、犬に命令を繰り返す事で強調する。犬側の理解では、ゲームをくわえたまま放さない事がモッテで、戻る事をコイで命令している事になる。準備訓練がきちんと入っていれば、犬はゲームをくわえたまま訓練手の元にかけて戻ってくる。
  4. 犬が足下まできたら、手を差し出してゲームを掴み、ハナセと命じる。ゲームを一旦背後に隠し、ヨシヨシ・モッテ・コイと犬を笑顔で褒め、犬が出来た事を大げさに褒め、必要ならご褒美を与える。
  5. モッテ・コイの訓練は、犬が疲れたり、集中力を欠いたりして、持来が不確実になる前に切り上げる。
  6. もう一度上手くできたら終わりにしようではなく、今はとても上手くできたから今日の訓練はこれで終わり、と考え、上手く行った訓練で、飼い主から褒められた記憶を犬に印象付けて終わりにするのがコツ。
  7. 距離は最初7m前後から始め、犬がすぐに投げられたゲームに追いつける範囲でだんだん距離を伸ばしていく。
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ジャックラッセルテリアでも絶対にかなわない相手も存在します。例えば持来訓練が入ったラブラドールリトリーバーは、テニスボール程度の大きさなら、口の中にくわえ込んで、訓練手の元に戻るまで、絶対他の犬に奪われない様に持ち帰る事ができます。まさにリトリーバーの面目躍如です。

 

この様にして持来訓練を教えておけば、飼い主さんは、時間が取れない時でも、短時間で繰り返し持来を命じるだけで、犬に必要十分な運動をさせることが出来ます。同時に持来はとても応用範囲が広い訓練ですので、興味のある方は是非訓練の課題に加えてください。

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10 犬を確実に制御するには?ツケを教えよう!

犬を確実に制御するには?

 

 

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ツケ(ヒール)の命令に従って脚側に戻り停座待機状態になったマイロ。この訓練は万が一に備え、犬を屋外に連れていく家族の全員がマスターしておくべき訓練です。

 

犬の性格によりますが、ツケ(ヒール・脚側停座)の訓練は、気性の激しい犬の場合、フセよりも前に、つまり犬のアイコンタクトが確実になり、スワレの命令に常に従う様になり、呼び戻しと脚側歩行が一定以上出来るようになったら、先に教えるべき訓練かも知れません。

実はツケの訓練は、単に犬を脚側に停座させるためだけの訓練ではありません。この訓練の本来の目的は、飼い主より前に出ようとしている犬を止めて落ち着かせたり、他の犬とじゃれている犬の遊びを中断して、呼び戻して脚側に静止させたりするのにも使います。極端な場合、よその人や犬に飛びかかろうとしている自分の犬をツケの一言で止めて脚側停座させるのにも使える訓練なのです。つまりツケの訓練は、活動中の犬のあらゆる動作を中止させ、飼い主の脚側に戻して静止させる、動から静への切り替えを、一つの命令で行うための訓練でもあるのです。ジャックラッセルテリアの様に活発で、時に攻撃的に振る舞う犬の場合、必須の訓練と言えるでしょう。

 

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ジャックラッセルテリアの中でも、ジャンの様に、比較的服従性が高い犬なら、通常の犬の訓練と同じく、脚側歩行と脚測停座をセットで教え、最初から座る位置を脚側で教えてしまうこともできます。今回ご紹介するどちらの方法を採るかは、飼い主さん自身が犬の性格にあわせて決めれば良いでしょう。

 

たとえば警察犬になる犬種では、最初のスワレの訓練の段階で脚側に停座させる訓練を教える事が多いです。ジャーマンシェパードやラブラドールリトリーバーの様に訓練性能の高い犬の場合、脚側歩行中にマテなどと命じて立ち止まり、犬が立ち止まったら、右手でリードを持ち、犬を脚側に立たせたまま首を少し吊り上げ気味にして、左手で犬の腰を下に押し下げながら、スワレを教え、スワレに従う様になったら、左太腿の外側を手で叩いて、犬の注意を引き脚側に停座させるだけでツケの訓練を教える事が出来ます。彼らは訓練手の補助動作や合図を容易に受け入れ、さらに訓練手が何を望むか、自分から積極的に探ろうとさえします。こうした訓練手法が通用する犬の場合、対面の停座は後から教える事になります。つまり脚側停座が訓練の基本動作となるのです。

 

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マイロの様にスワレの訓練を対面で始めざるを得なかった犬の場合は、対面から側面、側面から脚側と徐々に座る位置をずらしながらツケの訓練をする必要があります。

 

では、同じ犬座姿勢を取らせる対面停座スワレと脚側停座ツケの訓練は、犬にとってどんな違いがあるのでしょう?なぜツケの訓練を入れると、犬はおとなしく飼い主の脚側に座る様になるのでしょう?僕はこの2つの訓練は、犬の座る姿勢は同じでも、犬と飼い主の位置関係が異なるため、犬の安心感が違うのだと考えています。たとえば警戒心の強い犬に、飼い主が対面で停座を命じると、きょろきょろ回りを見回してなかなか落ち着かない事があります。彼らは自分も飼い主も無防備な背中を周囲に晒している事に不安を感じる為に落ち着かなくなる様に見えます。

反対にツケの訓練が入った犬が、飼い主の脚側に停座している場合、他の犬からの攻撃的な威嚇など、不測の事態にも飼い主と一緒に立ち向かえるため、対面停座より安心度が高い様に見えます。

一定以上犬と人に社会化された犬達は、特別に闘犬や番犬として訓練しない限り、自分から犬や人を攻撃することは希です。彼らは、相手が怖いと言う恐怖心による反動から、しばしば攻撃という実力行使に出ます。しかし高い社会性を持つ犬は、自分と飼い主が安全なら、相手を攻撃するより、飼い主の横で実力行使を伴わずに相手を近づけない方を選ぶ方が多いのです。

たとえば犬対犬で、ほぼ互角の相手でも、飼い主と犬が一緒に相手に立ち向かえば、相手の犬は威嚇の吠え声を上げても、お互いの限界距離の外側にいるかぎり襲って来ません。そういう心理的背景があるので、ツケの訓練が完成した犬は、たとえ攻撃準備態勢になっても、もっと極端な例では、他の犬と取っ組み合いをやっている最中でも、あらゆる活動を中断して、ツケの命令に従わせる事が出来るようになるのです。

 

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ジャックラッセルテリアは、子犬時代に犬と人を含む社会全般への社会化を十分行えば、たとえ相手が大型犬でもほとんど怖がりません。そのためこの犬種にツケを教えるのは、犬に飼い主との一体感を与えて落ち着かせる要素より、犬を飼い主の制御下に戻し、反社会的な行動を止めやすくする事が主目的になると思います。写真はドッグランでリード有りからリード無しに変えるべくツケを訓練中のジャン。

 

ところがジャックラッセルテリアの中には、マイロの様に、飼い主の庇護をそれほど必要とせず、さらに補助動作を全く受け入れない犬もいます。マイロの様な犬は、いわれのない自信の持ち主で、どんな相手でも自分でなんとか出来ると思いこんでいるふしがあります。ですから最初に対面で停座する習慣を付けた場合は、その位置をずらしながら、最終的にツケの命令だけで脚側に停座するように徐々に訓練していき、その位置関係の方が、犬にとっても安心感が増すと言う事を教える必要があります。

ツケの命令に犬が素直に従うかどうかは、飼い主と犬の関係にも影響されます。飼い主を信頼できる上位者と認めている犬は、ツケの命令に一旦従えば、安心して座りつづける事ができますが、信頼関係が確立していない相手がツケと命令しても、犬は安心できないため、脚側停座の状態も安定しません。反対に自信たっぷりな大型犬が飼い主家族の子供にツケと命令されると、その犬は子供を守ろうして、周囲への警戒レベルを逆に高める事もあります。つまりツケの命令で犬が確実に脚側に停座出来る様にするには、アイコンタクトから脚側歩行訓練までの訓練過程で、犬が飼い主を信頼できる上位者(犬の親代わり)として認めるように訓練する事が必要なのです。

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ツケの訓練をマスターすればこういう事もできます。ジャックラッセルテリアは外見だけは可愛いので「ワンちゃん触っても良いですか?」と幼い子供が良く寄ってきます。そんな時、ツケの一言で犬を脚側に停座させ、子供が好きなだけ犬をなでられる様に静止させておくのです。子供に犬の扱いを教えるには、最初にきちんとしつけられた犬なら怖く無い、と実体験によって納得させる必要があります。そんな時もツケの訓練が一番実用的です。

 

僕が、ツケの補助動作に一向に従わないマイロにツケを教えた方法は以下の様なものでした。

まずツイテと命じて、左の脚側にマイロを歩かせたままツケの姿勢を取らせたい場所まで歩いて行き、マテと声符と視符で命じながら立ち止まりました。次にスワレと命じました。マイロはスワレの声符に反応して僕の前に回り込んで来て、僕を見上げた姿勢で座ってしまいました。そこで、一端マイロ・ツイテと命じ脚側歩行してから同じ位置に戻り、今度は短く持ったリードでマイロを左のふくらはぎに押しつける様にしながら、ツケ・スワレと命じて見ました。マイロは不承不承、僕の左脚側に座りました。

この時、左手にマイロの大好物の砂肝ジャーキーを握り、ヨシヨシ・ツケと言いながら、左の太ももの外側をポンポン叩き、座る位置を強調しました。マイロが左脚側にツケができたら、すぐにヨシヨシ・ツケと褒めてご褒美を与えました。こうして「ツケにすぐ従うと良いことがある」と言う条件付けを繰り返し、脚側に停座させる訓練を行いました。

リードなしでツケに従わせる訓練も、基本的にリード付きで行うツケの訓練と同じ手順で行いました。最初はスワレ・マテで座らせた犬から少し離れ、オイデ、またはコイと犬を呼び寄せてから、ツケと命じました。リードなしだとマイロは、僕の足下から少し放れた位置に座る事がありました。 

その時は声符と視符でマイロ・ツケと命じなおして、正しい位置に停座出来たら、ヨシヨシ・ツケと笑顔で褒めました。

 

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ドッグランの中で遊んでいる犬たちにツケを命じたところ。ジャンは勢い余って、ベンチに駆け上がり駆け下り寄り道をしたが、ちゃんと僕の脚側に戻ってマイロとともに脚側で指示待ち状態になっています。

 

次の訓練は他の犬や人がいない、マイロが落ち着いていられる場所で、リードから放し、スワレ・マテを命じ、犬から静かに離れておこないました。犬の名前を呼びアイコンタクトして、最初はコイと呼び、近くまで来たらご褒美を持った左手で左の太腿をポンポン叩きながらツケと命じました。こうした訓練を生後8ヶ月まで繰り返し、やっとマイロはツケの声符と視符だけで、脚側に戻り停座して静止出来る様になりました。

マイロと同じように気性の激しい子犬にツケの訓練を行う場合は、この様な変則的な訓練方法を使わざるを得ない事があります。しかし一旦、ツケ(ヒール)の位置関係による安心感を覚えた犬は、積極的にツケの命令に従う様になっていきます。この様に、ツケの訓練でも、飼い主が終始一貫した態度を貫き、犬に信頼される飼い主である事を、常に犬に示すべきなのは他の訓練と同じなのです。

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子供達の散歩の練習につきあったあと、ベンチに座った子供からツケを命じられ、ベンチの上で子供の横に停座するジャン。訓練済みで従順な性格の犬はリードを持って散歩してくれる人間の命令をある程度聞く様になります。しかしリードの持ち方が甘かったりするとジャックラッセルテリアは相手の人間を同等以下に見て容易には従いません。この様にジャックラッセルテリアに対して常にリーダーシップを発揮するのは、容易な事ではありませんが、アイコンタクトから順に根気よく訓練を続ければ、僕はどんな犬とでも信頼関係を築くことができると考えています。視点を変えれば、僕にとっては訓練が目的なのではなく、毎日一緒に訓練を行う事で、犬に信頼され、尊敬される飼い主になる事が目的だと言えるでしょう。-目次はこちら-

9 飼い犬に手を咬まれないために

飼い犬に手を咬まれないために

 

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写真は椅子の上で寝場所を取り合うジャンとマイロ。彼らは幼時から犬と人に社会化を行い、相手に怪我をさせる様な咬み方は滅多にしないので、これでも儀礼的闘争の範疇だが、牙を剥きだし、恐ろしげな唸り声を上げ、素早く咬み着き合う様子はジャックラッセルテリアを知らない人から見たら「危険な犬」のレッテルを貼られてもしかたないものだと思います。 

「飼い犬に手を咬まれる」という日本のことわざがあります。これは日頃可愛がって飼ってきた犬、信頼していた犬に手を咬まれた飼い主の衝撃的な気持ちがことわざになったものでしょう。転じて、自分の部下・後輩など、ふだんから目をかけていた相手、自分に逆らう事など思いも寄らない様な人間から、手痛い仕打ちを受けた時、恩を仇で返された様な時に、このことわざが使われます。逆の見方をすれば、飼い犬が飼い主の手を咬むことなど、本来あってはならない、というくらい、犬は飼い主に忠実であるべきと言う意識が日本人にはあるのでしょう。

しかし、ジャックラッセルテリアを飼っている方、特に子犬からこの犬種を飼った経験のある方は、彼らが文字通り、飼い主の手を情け容赦なく咬む犬になりうる事をご存じだと思います。

ここでは強い咬み癖のあるジャックラッセルテリアを飼って試行錯誤した経験から「飼い犬に手を咬まれない」様にする訓練方法を考えてみました。ジャックラッセルテリアの様に、放任飼育をすれば簡単に「咬む犬」になりがちな犬種に対する一つの対処方法としてご紹介します。

 

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写真は襲撃訓練の応用でジャックラッセルテリアのマイロに咬んでも良いロープおもちゃを見せ、モッテと命じて咬ませたところです。この「遊び」が大好きなマイロは、唸り声をあげ喜々として咬み着き、ロープをもぎ取らんばかりに首を振り回します。彼女はこうした「獲物を強く咬み仕留める能力」を含めて、獣猟犬として育種された犬の末裔なので、咬む事自体を禁止しても効果はないようです。

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ヤメ・マテの命令で不満げな様子ながら、瞬時に咬み着くのをヤメて停座待機状態になったマイロです。マイロはすでに命令で咬んでいるものを放す訓練が入っているので、おもちゃに本気で咬み着いている状態でも命令でヤメさせ、静止させる事ができます。また、手を咬むと「楽しい遊び」が終わってしまう事も学習しているので、今は手を咬む心配も無くなりました。

ジャックラッセルテリアと言う犬にしばしば酷い咬み癖が見られるのは、元々この犬種が特殊な用途のために育種された獣猟犬だからです。その用途は、イギリスの伝統行事であるキツネ狩りです。この犬種を育種した、ジョン・ラッセル牧師は、熱狂的なキツネ狩りのファンであり、それまでキツネ狩りに使われてきたフォックスハウンドやフォックステリアの能力に満足できず、理想的なキツネ狩り猟犬を目指してジャックラッセルテリアを育種したと言います。

その育種の目的は、キツネの縄張りであるキツネ穴に躊躇なく潜り込み、キツネを恐れずに襲いかかり、穴から追い出し、キツネが逃げようとしたときは、後脚に咬み着いて、ハンターが来るまで抑えておける犬だったといわれます。そういう実猟用に育種された犬種のため、ジャックラッセルテリアは、小さな身体に不似合いなほど、頑丈な顎と牙を持ち、動きも俊敏で咬み着く力も強いのが普通です。たとえばロープおもちゃに咬み着かせたマイロを持ち上げれば、そのまま数分ぶら下がっている事が出来ます。この強い顎と、頑丈な牙で本気で咬まれたら、大人でも大怪我をしてしまうでしょう。僕自身も訓練の過程でマイロに何度も咬まれ、流血を伴う怪我を負っています。

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マイロと一緒に咬み着きを制御する訓練を受けるジャン。通常は1匹ずつ行うべき訓練だが、ジャンはマイロのやることをすぐに模倣するので、この訓練も一緒に行ってみました。 

さらに、近年ペットの量販店などが行う、子犬の単独飼育による展示販売は、子犬から初期の社会化の機会を奪い、本来親兄弟との触れあいの中で学ぶ「遊び相手を強く咬んではいけない」と言う学習の機会を奪ってしまいます。

ですから、飼い始めた子犬の咬み癖が酷いと感じたら、生後3ヶ月台の内に社会性のある犬たちと取っ組み合い遊びをたくさんさせて、犬の流儀で、仲間を強く咬む事はいけない、と教えてもらう必要があります。

 

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ジャンはマズルコントロールが効くジャックラッセルテリアとしてはおとなしい犬なので、ロープを放させる時に、マズルを掴んで、そこから耳の穴に人差し指を入れたり、息を吹き込んだりして見ました。

 

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アルファオオカミにマズルを軽く咬まれて「叱られている」下位のオオカミ。飼い主との上下関係が確立している犬なら、オオカミと同じようにマズルを押さえて叱る方法も有効だが、マイロの様にアルファ気質の強い犬の場合は、マズルを掴む事そのものを受け入れないので、この方法は逆効果で、遊びに誘うサインと誤解されてしまいました。

しかし子犬時代にそうした機会を設ける事ができず、成犬になっても咬み癖が直らなかった場合は、飼い主がむやみに人間や他の犬を咬んではいけないと訓練を通じて教える事で、犬の咬み着きを制御すべきだと僕は思います。

訓練方法は色々ありますが、警察犬に教える襲撃訓練の応用で、咬むものを指定して咬み着かせる訓練を行い、次に咬んだものを放す訓練をおこない、最後に命令で咬み着こうとした犬を止める、と言う順番で行うのが良いと思います。もちろん飼い主さんご自身がそういう訓練をする自信がない時は、警察犬訓練士など専門家の助言を受けることをお勧めします。

一方で襲撃訓練などいれると、他人を襲う危険な犬になりかねないので、そうした訓練はしない方が良い、と言う方もいます。しかしジャックラッセルテリアの場合は、元々大半の犬が放っておいても、他の犬やよその人を攻撃しやすい傾向があるので、それを制御して他の安全を確保するのが、飼い主の勤めだと僕は思います。たとえカワイイ外観で選んだ犬であっても、自分の犬がよその犬や人に危害を与えかねないなら、それを矯正するのも飼い主の責任だと僕は思うのです。

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上の写真は、アルファにマズルを咬まれて、おとなしく「罰」を受け入れ横たわる下位のオオカミ。下はオオカミと同じ叱られ方をおとなしく受け入れて無抵抗に横たわるジャン。外観がかけ離れていても、獣猟犬とオオカミには心理面、行動面で共通点が多いと僕は考えます。ジャックラッセルテリアの訓練で行き詰まるたびにオオカミの行動観察を参考にしたのはそのためです。

僕がマイロとジャンに行った「咬み付きを制御する訓練」方法は以下の様なものでした。

 命令で咬み着かせる、命令で放させる、命令で咬みつきを止める訓練

  1. 犬に咬んで遊んでも良いロープおもちゃを生き物の様に動かして見せ、モッテと命じて咬ませ、飼い主と犬でひっぱりっこする。手を咬む危険性のある犬の場合は鉄工用手袋で手をガードする。おもちゃを無視して手を咬むようなら訓練を中止してしばらく犬を無視してから訓練を再開する。
  2. 咬み着いて所有欲が高まり、犬が本気でおもちゃを奪おうと全力で引いてきたら、おもちゃごと犬を手元に引き寄せ、ハナセ(ダセ)と命じながら、オモチャを持っていない手の平を犬の顔に向けて見せる。犬は大きく拡げた人間の手の平を、大きく口を開き牙を閃かせた犬の口のように感じオモチャを放す。
  3. あるいはもう一方の手の指を犬の耳の穴にそっと入れる。または耳に強く息を吹き込む。この時、興奮した犬に咬まれない様に注意!
  4. 犬は耳の穴を強く刺激されると、咬みついているものを反射的に放す。
  5. 犬が咬んでいるおもちゃを素直に放したら、おもちゃを隠し、ヨシヨシ・ハナセと褒め、スワレを命じ、手のひらを犬の鼻面に向けてマテと命じ、しばらく静止させ、犬が短時間でもおとなしくできたら、ヨシヨシ・マテと褒めながらご褒美を与える。
  6. 1に戻り、再びおもちゃに咬みつかせ、しばらく遊んでから、ハナセの声符と視符で放させる事を繰り返し、ハナセといわれたら咬んでいる物を放す、と言う条件反射を作り出す。
  7. 訓練を1週間くらい繰り返すと、犬はハナセと言って犬の顔の前に手の平をかざすだけで、条件反射によってすぐに放す様になる。この訓練を毎日犬がある程度疲れるか、飽きるまで時間かけて続ける。
  8. 最後はおもちゃを見せて、咬みつこうとした時に、手を犬の頭の上にかざし、ハナセと命じ、最初から咬ませない様にする。この段階で声符はハナセからヤメに入れ替えても良い。
  9. 手をかざしてヤメと命じる→咬みつくのをやめる→飼い主に褒めてもらえる、と言う条件反射が完成すれば、他の犬と取っ組み合いをやっていても、ヤメやハナセの命令で取っ組み合いを中止して呼び戻す事もできる様になる。
  10. また、ヤメ~マテまでの訓練が完成すれば、犬が他の犬や人に咬み着きそうになる前に、ヤメで咬み着きを止め、マテで静止させる事も出来るようになる。ツケ(脚側停座)が出来る犬なら、ヤメ・ツケと命じても良い。

 

咬み着きを止めるところまで訓練が進むと、この様に犬の顔に向かって手をかざし、ジャン・ヤメと命じるだけで、咬み着く前に止める事ができる様になります。

この訓練で犬に教える事が出来るのは、モッテと言って差し出されたものは咬んでも良い事、ハナセまたはヤメと言われたら、咬んでいるものを無条件に放す事、さらに放したあとで、マテに従い、飼い主の次の命令を待つ状態で静止させ、必要なら他の犬の挑発を無視させる事です。

また散歩の途中で他の犬に敵対的に振る舞う犬の場合は、太めのリードの持ち手の下に結び目を作り、相手の犬ではなくリードを咬ませて訓練し、命令で静止させる様に訓練しても良いです。もちろん、この訓練の最終目的は襲撃を命じることではなく、襲撃の停止にある事を肝に銘じて訓練してください。

この様に、元々獲物に強く咬み着く能力を高めるために育種されたジャックラッセルテリアの様な犬の場合は、一律咬み着く事を禁止しても上手く行かないと思います。こういう、元々攻撃的な犬の場合は、咬んでも良いものをあらかじめ用意し、命令で自在に咬ませたり、放したりする事を教え、咬んではいけない状況では、命令で咬ませないと言う訓練をきちんと行う必要があると思うのです。

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以前使った写真だが、散歩の途中でスズメをしとめてしまったジャンに、ハナセと命じてスズメの所有権を放棄させたところ。すでにスズメは事切れているので、これは手遅れのケースだが、訓練次第で、自分でしとめた獲物であっても素直に放させる事は可能になります。今回紹介した訓練は、リトリーブしたゲームを飼い主に返す事にも応用可能です。-目次はこちら-

8 犬の服従性を高めるには?フセを教えよう!

犬の服従性を高めるには?

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写真は命令に従ってウッドデッキの上でおとなしくフセて待機しているマイロ。とんでもないお転婆犬でも、こうしていると少しは賢そうに見えるでしょうか。伏せる姿勢は犬にとって、服従性の高い姿勢で、なおかつ犬が落ち着く姿勢なので、この命令に確実に従うように訓練できれば、飼い主に対する犬の服従性を高め、犬を落ち着かせる事もできます。ジャックラッセルテリアの様にハイパーな犬には、是非教えておきたい訓練です。

 

今回は、犬の服従性を高め、犬を落ち着かせやすくする、フセの訓練について考えて見ます。

犬は社会性の高い肉食動物であるオオカミの子孫です。オオカミから社会性を引き継いだイヌは、オオカミの行動の多くをそのまま踏襲し、群れの個体同士でサインを出し合い、意思の疎通を図ったり、上下関係を確認しあったりします。イヌもオオカミも挨拶行動によって、お互いに仲間である事を確認しあい、上下関係を守る事で、効率良く狩りを行い、牙と言う強力な武器を持つ身内同士で、不必要に争わずに済むように行動を進化させた動物です。

さらにイヌは人間の家畜になる過程で、同族だけでなく、人間や他の家畜にも社会化する様になりました。その結果、異種である人間とも一定以上のコミュニケーションを取れる様になり現在に至っています。興味深いのは、多くの犬が視線の高さ、つまり目の高さによって、相手の大きさや自分との上下関係を測ろうとする事です。この視線の高さは親子であれば、親の方が子より高い事が多いので、視線の高さが異なる個体が出会った時、視線の高い個体がより年長の上位者と見なされ、視線が低い個体が下位者となる可能性が高くなります。

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マイロとジャンの散歩のルートにあるガレージに老シェパードが放し飼いになっていました。彼は番犬も自分の仕事と考えているらしく、前を通る人にも犬にもよく吠えます。マイロとジャンにも当然吠えかかるが、彼らは大きな犬が吠えても全く動じる事無く、自分から近づいて対等の挨拶しようとするので、老シェパードはとまどった様な顔で僕を見上げています。この様にジャックラッセルテリアは、通常の犬の階梯を無視する事があるので、相互の犬の社会化が不十分だと喧嘩の原因になる可能性が高いと思われます。

 

イヌでは大きな犬種の方が小さな犬種より、自然に上位者と言う位置づけになりやすいのですが、ここでジャックラッセルテリアは例外的な一面を見せます。彼らの行動を見ていると、あまり視線の高さによって、相手を上とか強いとか感じていない様なのです。その結果、大型犬から見たジャックラッセルテリアは小さな子犬のサイズなのに、下位者の挨拶をしない変な犬、擬人的にみれば生意気な奴と、とられやすい様なのです。これが原因となって、社会化が不十分なジャックラッセルテリアは、しばしば他の犬とトラブルを起こします。

犬はさらに、人間に対しても、視線の高さの差による判断を行います。人間の頭の位置は犬から見たらかなり高いので、人間に十分社会化された犬の場合、人間と犬の視線の高さの大きな差から、人間を「すごく背の高い同族」とみなし、自然と服従する気分になりやすいのです。反対に人間が姿勢を低くすると、犬は安心して寄って来ます。これも犬が人間に対して視線の高さと力関係を関連づけて認識している傍証になります。つまり人間が犬を従わせようとする時、人間が立ったまま命令をくだせば、相対的に高い視線によって服従させやすくなり、逆におびえている犬を安心させたければ、人間が姿勢を低くすれば良い事になります。

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低い塀の上でフセの訓練をうけるジャン。元々服従性の高い犬なら、この様に犬が少し緊張し、飼い主の命令に注目しやすい高さのある場所で、声符と視符と必要なら餌の報酬を使って訓練するだけで、簡単にフセを教える事ができます。

 

同じように上位の犬が、自ら伏せる事で、視線の高さを下げ、威圧感を減らす事で子犬や小さい犬を安心させようとする事があります。社会化が不十分で、他の犬を怖がる様な子犬でも、おとなしく伏せている犬が相手だと、安心して寄って来て、口元を舐めて甘える仕草を見せる様になります。さらに同じくらいの体格の犬同士が出会った場合、相対的に社会的地位の低い犬は、自ら姿勢を低くして、視線を高く保ち続ける相手に対して、下から近づいて口元を舐め、長上者に対する挨拶を行います。これは犬が姿勢を下げる事で、視線の高さも下げ、相互のコミュニケーションを円滑にしている行為にあたるでしょう。

こうした観察で共通する事は、犬は視線の高さを下げる事によって、相手に対して敵意が無いことを示したり、服従の意志を示したり、相手を安心させたりしていると言う事です。

この犬の習慣を利用して、ジャックラッセルテリアの様に、他の犬とトラブルを起こしやすい犬種でも、視線が低いまま安定する姿勢、つまり伏せる姿勢を取らせる訓練を行うと、トラブルを回避し、飼い主に対する服従性も高める事が出来ます。

さらにフセの訓練にいつでも従うように訓練すると、暴れ騒ぐ犬を瞬時に静止させたり、他の犬と喧嘩しそうになるのを止めたり、落ち着きの無い犬を静かにさせる事もできます。これはフセの姿勢そのものが、高い服従性を示す姿勢である事とも関係していると思われます。

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代々木公園のドッグランで、他の犬との取っ組み合い遊びに興奮しすぎたジャンを、家内が呼び戻し、高さのある切り株の上でフセ・マテを命じているところ。この様に、暴れ騒ぐ犬も、呼び戻しとフセに従う犬なら、短時間に落ち着かせ、トラブルを回避する事ができるようになります。

 

フセの訓練は、性質が穏やかな犬なら簡単に教える事が出来ます。最初はご褒美を手に持ったまま、犬が少し緊張するくらいの高さがある場所に載せ、犬とアイコンタクトして、人差し指を立ててスワレを命じ、その状態から、犬の鼻面をかすめるようにして指をゆっくり下げて行きます。犬はご褒美に注目して訓練手の人差し指を鼻面で追い、ゆっくりとフセの姿勢になります。この訓練は台の上の様な場所で始めると効果的です。犬がご褒美ほしさに前に出ようとすると、台から落ちてしまうので、人差し指の位置を調節するだけで、犬を的確にフセの姿勢に移行させやすいからです。犬が中々フセない場合は、前足をそっと持ってフセの姿勢に導いたり、背中を押し下げたりする補助動作も有効です。

一方フセの訓練など全く受け入れる気がなかった子犬時代のマイロの様に、例外的に強気の犬もいます。マイロはフセの初期訓練のさい、補助動作にも従わず、餌によるリードも通用しなかったので、スワレを教えた時と同じように、フセも関連づけ学習で教えようとしました。僕はマイロが自主的にフセの姿勢になる条件を探して見ました。

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マイロは爆竹やシャッターの開閉音はもとより、目の前で大型犬に吠えられても全く動じない犬だが、なぜか近所の公園の遊具の橋の上は怖くて足がすくむようでした。僕はマイロの苦手な場所を見つけたことで、他の場所では全くできなかったフセの訓練を始める事ができました。今でも橋の上は鬼門らしく、なんとなくそわそわしているマイロ。

 

ところがマイロは外にいても室内にいても、常に立って動き回っている様な活発な子犬で、おとなしく伏せている姿を見せたことがありませんでした。これでは、たまたまフセの姿勢を取った時にフセと命じる関連付け学習による訓練が出来ません。そこで家族全員のデジカメ画像から1,000枚くらいの写真を調べ、唯一公園の遊具のスノコ状の橋の上なら、マイロが自分から伏せるのがわかりました。その場所はスノコの隙間から下が透けて見えるので、マイロも高さが怖くて脚がすくんだのかも知れません。僕はマイロが遊具の橋の高さを怖がる事を利用し、最初はこの場所でフセの訓練を始め、次は低い塀の上、さらにベンチの上と徐々に高さを下げ、最後は普通の地面でもフセに従わせる事が出来るようになりました。それでもマイロが命令に従っていつでもフセが出来るようになるまで、半年くらいの訓練期間が必要でした…

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ジャンを訓練したのと同じ低い塀の上で、訓練中伏せたままくつろぐマイロ。彼女の感覚では、自分で容易に飛び降りる事ができる場所なら、狭い塀の上でも苦にならない様だ。もしあなたの犬のフセの訓練がうまく行かない時は、少し高さのある台の上で訓練を始めた方がうまくいくと思う。

 

この様にフセの様な服従を意味する姿勢の訓練に中々従わない犬もいますが、飼い主が犬の性格をきちんと把握して、その犬に合った条件を整えれば、たいていの犬の訓練は可能だと思います。ただしジャックラッセルテリアは、犬ごとに多様な個性を持つため、全ての犬に共通して使える手法を見つけるのは難しいかも知れません。つまり訓練を成功させる鍵を見つける事が出来るのは、他ならぬ飼い主さんご自身なのです。これがジャックラッセルテリアの訓練を難しいものにし、人任せにしにくい理由の一つだと思います。-目次はこちら-

7.5 キツネ狩り猟犬でカブトムシ狩り!

キツネ狩り猟犬でカブトムシ狩り!

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マイロが我が家に来てから、夏の恒例行事となった、夜のカブトムシ狩り。狩りというより、ジャックラッセルテリアの猟犬の能力を利用して、街灯に掴まってしまったカブトムシを回収する作業ですが、その裏にはいろいろな事情がありました。写真は街灯に飛来したカブトムシのオスをポイントするマイロ。

 

ジャックラッセルテリアの様に猟欲の強い犬、体力旺盛な犬は、本当は東京の様な都市部で飼うのには向かない犬種だと思います。こういう犬は、できれば広い農場等に放し飼いにして、自主的に一日中害獣狩りをやらせた方が良い様な犬たちです。東京で飼うのに一番困るのは、強すぎる猟欲が、時として予期しない方向に発揮されてしまう事です。相手が犬や人、飼い猫などの同居者なら、社会化することでジャックラッセルテリアの襲撃を防止出来ます。しかし野生の小動物や野鳥が相手だと一緒に暮らすわけにも行かず社会化は不可能です。その結果、都市の公園緑地で散歩していると、しばしばジャックラッセルテリアは自主的に狩りを始めてしまいます。

マイロは以前僕の目の前でクマネズミを3匹瞬殺にしてのけました。ジャンは今までにカワラバト・ツグミ・スズメ等の野鳥が飛び立つ瞬間を狙ってジャンプして捕らえ、一撃で仕留めてしまいました。

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写真はハト・ツグミについで、とうとうスズメまでしとめてしまったジャン。巣立ち雛ではなく明らかに成鳥でした。鳥猟犬が半矢の獲物をしとめるのは珍しくありませんが、道で餌をついばんでいる成鳥のスズメを捕らえる犬は希なはずです。正直ジャックラッセルテリアの俊敏さには驚かされました。ジャンは本能の命ずるままジャンプしてスズメをしとめたものの、僕のハナセの命令で所有権を放棄し、叱られると思ったのか、顔を背けています。僕はこの強すぎる猟欲をなんとかする必要があると考えました。

 

マイロとジャンは獲物と認めた相手を襲う際、無言で何の逡巡もなく、ただピョンっと飛びついて前足で押さえながら咬み着き、素早く振り回して背骨を折り一瞬で殺してしまいます。これはジャックラッセルテリアが生粋の猟犬であり、強い猟欲と小動物を容易に捕殺出来る俊敏さを今も持ち続けているからでしょう。興味深いのは同じ犬種なのに、マイロはネズミや昆虫を捕らえるのが上手く、ジャンは鳥専門に近いことです。ジャンはジャックラッセルテリアとしてはコートが柔らかすぎ、耳も垂れ耳なので、もしかしたら鳥猟犬のスパニエルなどの血が入っているのかも知れません。

こういう犬たちは、何か猟欲を満足させるような遊びを行わないと、生き物だけでなく、家具や衣類さえ獲物に見立て、勝手に狩りを始めてしまいます。その結果、獲物にされた家具や衣類は惨憺たるありさまになってしまいます。僕はフリスビーやボールを回収する遊びで彼らの猟欲を満たしてきたつもりでしたが、飛んでいるゲームに咬み着く遊びは、ジャンの鳥捕りの能力を高める方に作用してしまったかも知れません。

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マイロとジャンの夏の間だけの猟場である近所の森林公園。ごらんの様に、夜間は道沿いに煌々と街灯がともり、この明るすぎる灯りに掴まって命を落とすカブトムシなどの夜行性昆虫がたくさんいる場所です。

 

僕は、マイロとジャンに、実害の無い狩りの機会を与え、狩猟本能を満足させ、合わせて多少でも実益が得られないかと考えました。そこで思いついたのが、夏の夜のカブトムシ狩りです。自宅のある東京の目黒は古くからの森林があちこちに残る土地柄で、今でもカブトムシやクワガタが棲み着いている場所があるのです。このカブトムシが緑地内の街灯に飛んでくるのを、犬と一緒に捜して捕まえようと言うのが、カブトムシ狩りの目的です。

都市の公園緑地には、ハシブトガラスもたくさん棲み着いています。夜、雑木林の林床や落ち葉堆肥の山から羽化したカブトムシは、しばしば緑地内の街灯に飛んできます。カブトムシは石炭紀に進化した昆虫の伝統を守り、月や星からの平行光に一定の角度を保って飛ぶ習性があるため、街灯の様な明るい点光源があると、光に一定の角度を保って飛び続けようとする内、螺旋を描いて街灯にぶつかってしまうのです。この性質のせいで、昆虫は一度街灯に捉まってしまうと、逃げ出す事ができなくなり、だれかが救出しなければ、翌朝にはハシブトガラスの朝食にされてしまうのです。

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一眼レフカメラにストロボを付けて撮った、カブトムシに鼻面を向けポイントするマイロ。マイロの独特の振る舞いでそこにカブトムシがいると言う予測はしていたが、撮影するまで、僕にはカブトムシそのものは見えませんでした。

 

僕はこの街灯にやってくるカブトムシを回収するのに、マイロとジャンを使ってみようと考えました。彼らは獲物を嗅跡と視覚と聴覚で探せるテリア系の獣猟犬なので、年齢と共に視力の落ちた僕に代わり、暗がりでカブトムシでも探してくれるはずだと考えたのです。

梅雨の晴れ間、じっとりと湿った空気が蒸し暑い6月末の夜、僕はマイロとジャンを連れて、毎年カブトムシの死骸をたくさん見かける区内の森林公園に出かけました。目指すはカブトムシやクワガタなどの夜行性の甲虫類です。僕はまず、マイロとジャンをベンチに座らせてから、目的物を指定せずに、サガセと命じて見ました。普段はサガセの声符で手の匂いなどを元臭に隠したボールを捜させる訓練を行うのですが、カブトムシの原臭は無かったので、こういう変則的な命令しか出来ませんでした。マイロとジャンは何も目的が示されないので、不承不承と言う様子で僕の前に出て、地面の匂いを嗅ぎながら歩き始めました。

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夜露に濡れた落ち葉や道に敷き詰められたウッドチップの上にカブトムシがいても、人間の眼で暗がりにいるカブトムシを見つけるのは困難でした。しかしジャックラッセルテリアは、嗅覚・視覚・聴覚を動員して、次々とカブトムシを見つけてくれました。

 

サガセの声符で何かを捜索する時は、マイロもジャンも僕に先行する事が許されています。やがてジャンが一本の街灯の下に落ちていたカナブンを見つけました。カナブンは本来昼行性ですが、発生の初期には、夜間街灯にくる虫もいます。目指す獲物ではありませんが、ジャンのモチベーションを上げるため、僕はマテと命じて、ジャンを止め、カナブンを回収し、ジャンをヨシヨシ・サガセと褒めて、ご褒美の砂肝ジャーキーの小片を与えました。

マイロはジャンがご褒美をもらうのを見たとたん、地鼻と高鼻を交互に使い、急に熱心に獲物を探し始めました。彼女なりに、捜さなければならない獲物を把握した様でした。やがてマイロは街灯の下の落ち葉に隠れていた大きなカブトムシを見つけました。僕はカブトムシに咬み着こうとするマイロに、マテと命じ、ジャンの時と同じように、ヨシヨシ・サガセと褒めて、ジャンに与えたのより大きな砂肝ジャーキーを与えて、カブトムシを回収しました。

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時には地元の同業者と鉢合わせする事もあります。マイロが見つめているのはヒキガエル。彼らも電灯に飛来する昆虫を捕食するために、夜街灯の下にやってくるハンターです。ちなみにヒキガエルには「ブフォトキシン」と言う猛毒があるので、犬が咬まない様に教えておく必要があります。

それから2匹は、次々とカブトムシやクワガタムシを見つけ始めました。おもしろいのは、マイロもジャンもカブトムシやクワガタにはすぐに咬み着かなくなり、少し距離を置いて、鼻面を向けてポイントするような仕草を見せた事です。これは、最初に鼻面を近づけ過ぎ、とげだらけの脚で蹴られたため、危険な相手と学習したからのようです。そして2匹の鼻面が示す先の交点には、必ずカブトムシやクワガタが隠れていました。

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鳥猟と同じ要領で、犬2匹に獲物のカブトムシをポイントさせると、彼らの鼻面の延長線の交差する場所にカブトムシがいる事が分かります。

僕はこのカブトムシ狩りを、雨が降らなければ、毎年6月末から9月中旬まで、マイロとジャンに手伝わせ、毎晩近くの森林公園で繰り返しています。森林公園には、立派な捕虫網と大きな懐中電灯を持った親子連れが毎晩数組やってきますが、今のところ犬を使っているのは僕だけの様です。気になる猟果ですが、毎晩散歩がてらに日没直後から1時間ほど「カブトムシ狩り」をやるだけで、少ない時で2-3匹、多いときは10匹以上のカブトムシやクワガタを見つける事が出来ます。

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今夜の獲物はカブトムシのオスが3匹、メスが1匹、ノコギリクワガタが1匹でした。都内23区の公園緑地で、1時間強の間にこれだけの昆虫を採集するのは視力の落ちた僕では難しいと思います。猟犬の協力があってこその採集結果でしょう。

 

一方人間だけで採集をやっている親子連れは、全く採れないか、採れてもせいぜい一匹だけと言う人たちが多い様でした。これは街灯に飛んで来たカブトムシが、街灯の下の落ち葉にすぐ隠れてしまうため、人間の目では見つけられないせいかも知れません。カブトムシは望んで街灯にくるわけではありません。人間の都合で作った明るすぎる街灯の被害者なのです。僕は毎晩、マイロとジャンが見つけたカブトムシを虫取りの親子連れに進呈して帰宅します。放置して翌朝カラスの餌食にしてしまうよりは、親子で大切に飼ってくれる人にあげた方がカブトムシも幸せだと思うからです。夏休みが終わり、もらい手がいなくなると、メスを自宅に持ち帰り、産卵させて幼虫を同じ森に帰すこともしています。

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夏の夜のカブトムシ狩りのもう一つの成果がこれ、疲れて横たわるジャックラッセルテリアたちです。通常の散歩だと数時間歩いても元気に帰宅するマイロとジャンだが、五感を総動員して行う狩りは、カブトムシ相手でも結構疲れるようです。これで今晩はおとなしく寝てくれる事でしょう。

 

僕は昨年なじみになった子供たちから「カブトムシ犬のおじさん」と呼ばれる様になりました。マイロとジャンは夏の間だけキツネ狩り犬からカブトムシ狩り犬になるわけです。毎年6月の終わりからカブトムシ狩りを始め、毎晩数匹ずつのカブトムシを見つます。マイロとジャンがいなければ、こんなにたくさんのカブトムシを見つける事はできなかったでしょう。改めてジャックラッセルテリアの猟犬としての能力の高さに感心しています。これを読んでいる猟犬の飼い主さんも、今年は犬と一緒に昆虫採集にチャレンジされてはいかがですか?

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7 礼儀正しく振る舞える犬にするには?

礼儀正しく振る舞える犬にするには?

                             

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例えば前回紹介した脚側歩行訓練をマスターした犬なら、どんな場所でもリードを持つ人に合わせてくれる。写真は公園の遊具の急な斜面を子供と一緒に駆け下り、最後は子供に合わせて一緒にジャンプしているジャックラッセルテリアのジャン。

自分の飼い犬を公共の場所で礼儀正しく振る舞わせる、これは東京の様な都市部で犬を飼う以上必須のことだと思います。しかし日本は地方条例で「犬を引き綱から放してはいけない」などの公的規制は厳しいものの、こと犬のしつけと訓練に関してはかなり甘い国だと思います。

この頃家の近くで良く見かけるのは、巻き尺式の長い引き綱に犬を繋ぎ、数mもの長さで犬を自由にさせて散歩している飼い主さんの姿です。これは一見すると、日本の地方条例の中で、出来るだけ犬に自由に振る舞わせようとする優しい行為にも見えますが、そういう散歩の仕方をしている犬に限って、他の犬にいきなりとびかかりそうになったり、見知らぬ人や物音にやたらと吠えたりする犬が目立ちます。これはなぜでしょうか?

 

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飼い主が挨拶を交わした人が連れている大型犬(ラブラドル犬とシェパードのミックス)に、耳を引き、下から礼儀正しく挨拶しているマイロとジャン。 

以前脚側歩行の説明で書いたように、散歩の時に常に犬に飼い主の前を歩かせる習慣を付けていると、犬から見た飼い主は、犬から大して自己主張をしない存在と見なされ、犬より弱い立場に陥りやすいのです。

犬の祖先のオオカミは、移動の際、上位者が下位者に先行する習慣を持っています。これは群れの中でより強く経験豊富で、判断に優れた個体が先行する事で、獲物や敵に対する群れ全体の対応をスムースに行うためだと僕は考えます。つまり経験豊富でリーダーシップを発揮出来る上位者が先行するのが、群れで暮らすオオカミの重要な生き残り戦略の一つだと言う考え方です。

 

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マイロを怖がって吠えまくるチワワに対して自らおなかを出してなだめようとしているマイロ。訓練で教えた行動だが彼女は自分を怖がる犬を宥めるために自分からこのポーズを使うようになりました。

 飼い主と飼い犬の関係でも同じような事が言えると思います。散歩の際に常に飼い主の前を歩く習慣のある犬は、心理的に上位者として振る舞う様になります。上位者である犬は、向こうからやってくる他の犬や、見知らぬ人、大きな音を立てて走るクルマなど、あらゆる懸案事項に飼い主より先に対処する事を求められます。その結果、社会化が不十分な犬の場合、前から来る犬や人が少しでも敵対的だと感じると、恐怖の裏返しで、威嚇の吠え声を上げて遠ざけようとしたり、頼りにならない飼い主以外の、そこにはいない仲間を呼び寄せようと招集の吠え声を上げたりします。ある意味、散歩の時に、常に犬に前を歩かせている飼い主さんは、犬に「おまえが上位者なのだから、自分の判断で行動しろ」と強いている様なものなのです。これは人間より小柄な犬にとっては、かなりのストレスになるはずです。

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ジャックラッセルテリアとピットブルテリアは、複数の国で咬傷事故の上位にいる、ある意味「危険」と見なされる犬たちだが、ジャンも相手の犬も、小さい頃からドッグランで取っ組み合い遊びを繰り返し十分社会化できている犬なので、飼い主がついていなくても、フレンドリーに挨拶を交わし危険なそぶりは全く見られません。これは幼少時の社会化さえ十分なら、危険な犬種などないと言う傍証になる例だと思います。

 反対に散歩の時、常に飼い主の脚側より後ろを歩く習慣がついている犬は、飼い主を自分の上位者と見なし、相対するあらゆる事象への対応を、飼い主に任せて下位者の地位に落ち着く事が出来ます。たとえば人間である飼い主が、前からくるよその犬に敵対的な態度をとらず、相手の飼い主とも友好的に挨拶をすれば、下位者である犬も、飼い主の行動に従い、フレンドリーに相手の犬に挨拶する事が出来ます。こうした犬の心理は、群れで獲物を倒して暮らしてきたオオカミたちから引き継がれた半ば生得的なものだと思います。ある意味犬は社会性を持ち、きちんと上下関係を守る事が、生死や狩りの成否に大きく影響していたオオカミの習慣を今も守っているのです。

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こちらは公園の遊具の急斜面を登るジャンと子供。こうした場面で犬が斜面を一気に登ろうとすれば、リードを持つ子供は引き倒されて怪我をするかもしれない。リードを持った人に犬が歩調に合わせて歩く脚側歩行訓練は、階段や斜面の上り下りを一緒にやってみると、その完成度がわかりやすいです。

 この犬の上位者に従って行動する心理を応用すれば、他の犬に対する衝動的な攻撃や、見知らぬ人に対する吠え掛かりや、突然の攻撃と言うトラブルも、飼い主の意志に犬を従わせる事で防止できます。つまりオオカミの持つ強い上下関係を、飼い主と犬の間で構築できれば、他の犬や人とのトラブルを上手く避ける事が出来るようになるのです。飼い犬の多くは、オオカミのネオテニー版と見なす事もできますから、飼い主と飼い犬の関係は、異種とはいえ義理の親子関係と見なす事が出来ると思います。

この上下関係=親子関係を構築する具体的な方法の一つが、リードと首輪を使って脚側歩行訓練を行うと言うことでした。それ以外で有効な訓練の一つが、例えばツケ(ヒール)の一言で、犬を脚側に着けて静止させる訓練です。こんな風に自分の飼い犬を常に礼儀正しく落ち着いて行動できる犬にする方法について、次回以降も考えて行きたいと思います。

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通りすがりのよちよち歩きの赤ん坊が「わんわんをよしよしする」と言いながらいきなりマイロとジャンに手を伸ばして来ました。外面だけは可愛いジャックラッセルテリアだけに、こうした事は日常的に起こります。こんな時はツケ(ヒール)で脚側停座と静止を命じ、幼児が犬に触っている間、行儀良く座って待てる様にしておきたいものです。

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6 呼べば必ず戻る犬にするには?

呼べば必ず戻る犬にするには?

                             

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呼び戻し訓練が確実に入れば、ドッグランの中で他の犬と遊び回っているジャックラッセルテリアをツケの命令だけで脚側に呼び戻し静止させる事もできます。しかしこの犬種の場合、ちょっとしたミスが呼び戻しを困難にしてしまう事があるのです。 

ドッグランなどでジャックラッセルテリアの訓練をしていると、しばしば同じ犬種の飼い主さんから質問されるのが「呼び戻し訓練」です。今まで質問を受けたどの飼い主さんも、この犬種はリードから放すと、いくら呼んでも帰って来ないので困る、とおっしゃっていました。僕も初期の訓練で失敗すると、ジャックラッセルテリアの呼び戻しは難しくなると感じています。原因は、この犬種が強く持つ独立独歩のテリア気質と猟欲の強さのせいもありますが、大半は訓練初期に訓練手がおかす、ちょっとしたミスのせいだと思います。僕自身もマイロの呼び戻し訓練で失敗した事があります。今回はジャックラッセルテリアのマイロで失敗した経験を元に呼び戻し訓練について考えて見ます。

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呼び戻しの初期訓練を受けるマイロの義理の弟犬ジャン。最初はリードに繋いだまま、手元に呼び寄せ、笑顔で褒め餌の報酬を与えます。こうして飼い主の命令で戻れば、必ず良いことがあると学習させるわけです。 

僕は犬の訓練で呼び戻しが重要なのは、犬が反社会的な行動や、飼い主にとって困る行動をとろうとした時、犬を飼い主の制御下に呼び戻す事で、その行為を止める為と考えています。つまり犬をリードから放して自由に遊ばせたければ、呼び戻しは必須の訓練と言う訳です。

近年、都市部の公園緑地で犬の放し飼いに対する規制が強まったのは「呼び戻しも効かない犬をむやみに放す無責任な飼い主が多く、咬傷事故が増えたから」と言う管理者側の言い分もあります。逆の見方をすれば、飼い犬のすべてが、飼い主の脚側について歩き、何かあっても確実に呼び戻せる様になっていれば、地方条例における「犬の放し飼い禁止」を撤廃させる事も出来るかも知れないのです。

 

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子犬時代のマイロは、呼び戻し訓練もすぐ覚え、リードなしでも確実に駆け戻る犬だったが、僕のちょっとしたミスで、呼んでも帰らない犬になっていた時期がありました。 

子犬時代のマイロがスワレとマテの訓練を覚えたところで、僕はコイも一緒に教え始めました。犬の呼び戻し訓練の始め方は簡単なものです。最初は普通の長さのリードに繋ぎ、対面でスワレを命じ、次に手のひらをマイロの鼻面の前に突き出してマテを命じます。マイロがマテに従っておとなしく座っていられたら、手の平をマイロに向けたまま、マテと繰り返しながら、リードいっぱいの長さまでゆっくり後ろに下がり、そのままマイロが座って待つ事に耐えられる限界まで待ちます。

マイロはじっと座っている事に十数秒で飽きてしまい、もじもじ立ち上がろうとします。その瞬間を逃さず、コイと呼びながらマイロをリードで引き寄せます。マイロはじっと座っているより、僕の方にやってきて構ってもらう方を選び、小走りに駆けて来ます。マイロが手元に来たら、ヨシヨシ・コイと彼女がやってきた事を笑顔で褒めながら、マイロの好きな撫で方でなでてやり、必要ならご褒美の餌を与えます。

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リード無しの呼び戻し訓練も、最初は地味に短距離から少しずつ距離を伸ば

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して訓練します。最初は数回でもうまくできたら、すぐに訓練を終わりにして、犬と遊びます。 

この呼び戻しの訓練を、マイロの集中が続く短い時間、毎日数回、数分ずつ繰り返し行い、次に長めのリードで訓練し、さらに短距離でリードなしでもマイロを呼び戻せる様に教え、最終的にはマイロが遠くにいてもコイと言う声符と手で招く視符で僕の元まで帰ってくる様に訓練しました。マイロは、僕に呼ばれて帰ると、常に笑顔で褒めてもらえ、餌ももらえると言う正の学習によって呼び戻し訓練をマスターする事ができました。

これでマイロの呼び戻しの訓練は上手くいったと思ったのですが、ちょっとしたきっかけで、マイロは呼び戻しに従わなくなってしまいました。僕も最初はその原因が分かりませんでした。

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理由は分からないが、この訓練にほとんど参加していない家内が呼び戻すと、マイロもジャンも大喜びで駆け戻ってきます。彼女の家庭内での地位は高く、犬たちを強く叱る事がないので、犬にとって優しい母親の地位を占める事に成功しているのかも知れません。

 最初のきっかけは、ドッグランに連れて行き、犬同士で遊ばせている時に、マイロが柴犬の成犬に尻尾を咬まれてしまった時だったと思います。僕はマイロを呼び戻し、ベンチに座らせてリードに繋ぎドッグランから出る事にしました。マイロがあまりに興奮していたので、それ以上他の犬と遊ばせるのはまずいと思ったのです。

ところが、次にドッグランにいくと、マイロはリードから放したとたん、一目散に駆けだして行き、僕が呼んでも帰って来なくなってしまいました。僕はマイロの呼び戻しをやめてベンチに腰掛け、彼女の方を視線だけで追いながら、しばらく見守る事にしました。この時は呼び戻しをかけたけど戻らずに済んでしまった、と言う間違った学習をさせない様にするだけで精一杯でした。

やがてマイロは遊ぶだけ遊ぶと、頭を下げ、耳を引き、尻尾を水平にして僕の近くにやってきました。彼女なりに反省して服従姿勢を見せているようだったので、僕はコイとマイロを呼び、手元に来たところでヨシヨシ・コイと褒めてやり餌も与え、リードに繋ぎドッグランを後にしました。

その後1ヶ月ほど、マイロをドッグランに連れていくたびに、同じような事が繰り返されました。マイロは一旦リードから放されると、自分が遊び飽きるまでなかなか呼び戻しに従いませんでした。当初僕は柴犬との取っ組み合い遊びを呼び戻して止めた事で、マイロが呼び戻しを好ましくない事と覚えてしまったのかと考えました。しかし遊び相手がいない時に、ボールを使ってリトリーブ遊びをしている時も、マイロはボールを持ち帰る時は確実に戻るくせにボールなしの呼び戻しには従いませんでした。この事から、僕は何か他に原因がありそうだと考え始めました。

僕は試しに、マイロが遊び疲れて帰って来たとき、マイロ・コイと呼んで、ベンチに並んで座らせ、身体を撫でてやるだけで、リードに繋ぐ事をせず、餌と水を与えヨシヨシ・コイと褒めるだけにしてみました。マイロは少し休むとすぐ元気になり、また遊び相手を捜しに行きました。そんな事を数回繰り返してから、僕は思いきってドッグランの端に座り込んでバンティングしているマイロに呼び戻しをかけてみました。マイロはトコトコと小走りに駆けてきて、僕の前に自分から座りました。

これで、マイロが呼び戻しに従わなくなった訳がなんとなく分かりました。マイロは呼び戻されるとリードに繋がれドッグランを出なくてはいけない、つまり、呼び戻しに従うと、それで楽しい遊びが終わってしまうと、誤った学習をしていたのです。

Image042呼び戻し訓練と停座待機が確実にできる様になると、こんな事もできます。写真はドッグランの中で遊んでいたマイロとジャンを家内が呼び戻して、首輪を付けようとしている所。

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2匹ともおとなしく座り、首輪を着けてもらうのを待っています。もし脚側歩行訓練で使ったハーフチョーク首輪を嫌っているなら、こうした態度を取ることもないでしょう。

 

マイロもジャンもおとなしく座って待つだけでなく、首を差し出して積極的に首輪を付けやすくしています。見方を変えると、これは自分の首を絞める事のできるハーフチョーカーを自主的に着けてもらおうとしている事になるでしょう。彼らはハーフチョーカーによる訓練を、自ら受け入れ、上位者である家内が首輪を着ける事を必要な事、または上位者の権利と理解している事になるのだと思います。-目次はこちら-

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